無事に鉄扉の設営を終えたT爺さんだが
「イ爺も昔はこの山の麓に住んどっての〜。隣同士じゃったんじゃ。 年令も近かったけん、何時も一緒に遊んどった」 とイ爺さんとの思い出を懐かしそうに話してくれた。 「ここらの山は蜂が多いけん、二人で山に行って蜂の子を集めての〜。 それを持って川釣りに行きよったよ。 釣りに夢中に成り過ぎてえらい下の方迄下ってしもうて、戻って来るのに苦労した事があっての〜」 「二人とも褌(へこ)いっちょうの裸同然じゃから虻にたかられて往生したよ」 「虫取り草で払い払いするのじゃが、釣った魚を持って川の中を歩くのじゃから、 追い切れず喰われ放しじゃった。酷い目に合うたと〜」 「ほんでも懲りもせんで、三日もしたら直ぐに釣りに行くで〜って呼びに来よった〜」と懐かし気な顔だ。 そして、話しが途切れ遠くの山に目を向けてると 「ダムが出来て川が死に、山から人が居らん様になって山が荒れ、何もかも変わってしもうた。 虫にかまわれて酷い目に会うても止められ程面白かった釣りも、もう体験出来ん」 と話すと逝ってしまったイ爺さんの面影を追うかのように 「もう、つまらんと思うたかのう。さっさと逝ってしもうて・・・・。」と呟くと 振り切る様にして山仕事に戻って行った。
by terujiinoyamagoya
| 2019-09-08 19:45
| 森の風
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